振興大会イベントレポート|振興大会講演会|


「父親・母親の役割」
講師 河上 亮一

紹介頂きました河上です。よろしくお願い致します。最初にちょっとお断りしておきたいと思うんですが、私は現場の公立中学校の教師として三十数年間やって来たその中で考えたこととか、感じたことをこれからお話しすることになります。  ここにいらっしゃる方々は幼稚園にお子さんを預けていらっしゃるお母さんが殆どですので、こういう言い方は最初からおどかす様で申し訳無いんですが、知恵を働かせ無いで、周りの流れに沿って何となく子育てをしていると、これから私がお話する様な中学生になると私は思っていますので、最初にお話をします。

 
 
 現在、私自身は十四、五年前からどうも日本の中で、子供達がそれ以前とは、全く違った子供達として登場したんじゃないか、という事が言えるのではないかと思っています。

 一つの大きな特徴は、極めてひ弱になった、という事があると思います。  毎年4月に中学で一年生を見ていると、年々、生活の仕方を殆ど身に付けてない生徒が酷く多くなった気がしています。そうすると、学校の中でその集団生活、社会生活をする中で、上手く体が適応しない事が一杯出て来るんですよね。ですから、立ち往生してしまう。そういう事が度々出て来る様になった。

 学校の役割、これは幼稚園の役割とも同じだと、私は思っているんですが、日本の場合には小学校と中学校の9年間を学校生活させる事によって、社会的に一人前の大人として行動できる様な基礎的な能力を身に付けさせる、それが学校の役割ですね。固い言葉で言えば、子供の社会的自立を支援する場である。こういう風に考えて良いと思います。最近は残念なことに、そういう考えが私達大人の中からだんだん薄れて来てしまっています。例えば、この子が将来一人で生きて行く訳ですから、嫌なこととか難しいことに一杯一人でぶつかって、それを乗り越えようと努力する。或いは、上手く乗り越えられないにしても、知恵を働かせて横からするっと向こうへ逃げてしまうとかですね。ですから、教師は小学校一年の時から生徒に対して、なるべく辛いことや難しいことや嫌なことを一杯要求する訳ですね。それが、十四、五年位前から学校で生徒達が辛い事に直面すると、これに対して挑戦して何とか乗り越えようと努力しないで、簡単にその手前で参ってしまう。精神的に参ってしまうだけではなくて、肉体的な変調も伴う様になりました。

 それから、どうも生徒の内面と言うか、心と言うのが、極めて傷付き易くなっている。自分が傷付いて、それに耐えられなくなってしまうと、周りの人達の働きかけを一切入れない様な殻を作ってしまう。

 ところが厄介な事にひ弱だと思っている同じ子供が時と場合によって極めて攻撃的、暴力的になる事がある。  又、自分の振るった暴力をこれはやり過ぎだったという風に振り返る事が出来なくなったと、私は思っています。

 そして、子供達が自分の欲望を抑えるということを殆どしなくなりました。

 
 こういった子供達の問題は一体何なのか?
 私は二つあると思っていますが、昔はワルがしていた不登校ですとか、或いは激しいいじめ、それによる自殺、学級崩壊、校内暴力、そういう問題を普通の子供達が時と場合によって起こす様になった。この事が先ず大きな問題だと思っています。

 もう一つは、社会的自立の非常に難しい子供達が大量に中学校から卒業して行っている、という事で、現在、最近の子供達の最大の問題であると、私は考えています。  では、一体何故こういう子供達が登場する様になったのか。  まず、日本の社会は豊かになった。どんな仕事に就いても、結構贅沢は出来るんだよ、という事を生徒達は身を持って知っているんですよね。簡単に言うと、社会的なプレッシャーが無くなった訳です。

 又、一九七〇年代の高度経済成長期を達成した時期に、日本が村社会、大人の共同的なつながりを壊したということが大人の教育力、学校の教育力を大きく低下させた、という風に考えていいと思います。

 そして、日本の社会が豊かになって、自由で個人第一の社会になった。そういう自由っていうのが日本中に広まってくるとすれば、教育するという事が極めて難しくなって来る。

 ですから、この中に自分の子供が上手く育たないと考えている人がいるとすれば、それは当たり前の事で、こういう社会の中で子育てするという事は、どこのお母さんも極めて難しい時代なんだよ、こういう風にまず考えなくてはならない。

 
 昔と違い、今は子育ては一体何の為にするのかと言う所からもう一回じっくり自分で考えてみないと、先程の様な子供達が出て来るという風に私は考えています。

 では、子育ての目的は何なのか。一個しかないですよね。家から子供を早く出して、一人立ち出来る様にするというのが、親の役割ですよね。子供の能力を伸ばすとか、個性を伸ばすなんてことは、親の役割ではない。そんな風に考えている方が居るとすれば、それはすごい思い上がりだと私は考えています。

 そうすると、赤ちゃんの時から何をやらせるべきか、優先順位が出て来ますよね。  一番の優先順位は、生活の仕方、狭い意味での躾を一つ一つ根気強く教える事ですね。

 二つ目は、欲望を抑えるということを何度か体で練習させる事。  同時に、お父さんやお母さんがいなくなった時に他人の中で生活する訳ですから、早い内から自分とは関係ない他人と付き合うことを練習させた方がいいですよね。

 ということは、今の様な三つを本気になってやろうとすると、子育ては基本的には子供達との戦いになりますね。お母さんだけでやるのは、不可能ですね。父親と母親が父性的な役割と母性的な役割を上手く演じ分けながら、子供に対応した方がいいでしょう。

 それからもう一つ言わなきゃいけないんですが、日本は江戸時代から一軒一軒が過酷な状況で生きて来なかったので、もともと大きな教育力なんて持っている筈が無い。だから、自分の家だけでは無く、他の大人と子育てを一緒にやる様な、そういう関係を意識的に作らなければ、自分の子供を一人前の大人にすることは難しいと思います。

 最後に、勉強についてお話しなくちゃいけないんですが、圧倒的多数の子が勉強が出来ないし、出来ればしたくも無いのに、勉強しろ、と小さい内からプレッシャーを賭ける。ですから、今から何をやるかと言ったら、自分の子を少し離れて見て、いい所に早く気付いてやり、「お前はこういういい所が有るんだからね、こういういい所を伸ばすんだよ。」としっかり言ってやる。これは自信を持って生きられるでしょう。

 さっき私が言った新しい子供達、ひ弱でしかも極めて暴力的、攻撃的な子供達は、とっても生きるの辛いですからね。ですから、小さい時に周りに居る大人達は、優先順位や子育ての役割を考えた方がいいだろう。こういう風な気がしています。